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レコード盤のような土星の環から響く、かすかな音に、耳を傾けたい。
それがどんなに遠いとしても。手を伸ばしても届かないとしても。
ところで、人生の折り返し地点、と言うものがあったのだとしたら、ぼくの場合はいつだったのだろう? それがいつだったにせよ、ぼくが今、人生を往路と復路に分けるならば復路にいることだけは間違いない。いずれそう遠くはない時期に、生まれる前にいた場所に、このぼくも帰っていくのだ。
だとしたらそこには自ずと、「復路の哲学」とでも言うべきものが要請されるのかも知れない。しかし、往路の哲学だって持てなかったぼくだもの、そんなものを持てるのかどうかは甚だ危うい。
とは言うものの、例えばこんな言葉(P.ヴァレリーの言葉だ)を支えにぼくは今、生きているのかも知れない。
湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来に入って行く
つまり、我々は未来に背中を向け、後戻りしながら進んでいくのだと。未来は、背中を向けていて、見えない。だから、過去の全景をしっかりと見据えることでしか、真っすぐに、あるいは自分の進みたい方向に進む、方法はない。そういうことなんだと思う。
そんなぼくの、このささやかなウェブサイト「土星の環」。環の面上で奏でられる小さな響きに、しばし耳を澄ませてください。
2021年2月 所 英明