どういう訳だか、一年前から某市の市民活動補助金の審査委員(というか、ギッチョ、じゃなくて議長)をやっている、エヘン。
ほとんどお金にはならないのだが、審査の為にはたくさんの申請書類を読まなくてはならず、読んだ後は審査書類をつくらねばならず、委員が集まって審査会をやらねばならず、中間報告や、今日そうだったように、事業成果発表会に出席して、ギッチョとして(正確には、わたしは右利きである。…じゃなくて議長として)講評みたいなこともしゃべらないとイケナイ。特に、この時期は、今年度の事業団体の最終評価と、来年度の申請団体からの申請書を読んで審査する過程が重なっており、一昨日は来年度申請団体の仮審査書類の提出日であったため、何だか夏休みの宿題を31日になっていきなり片づけている子どもにでもなったようにひぃひぃ言って(実際には言っていない、もちろん)なんとか提出した。
と、いうようなことは、あくまでバックグラウンドの話であって、本題とは関係ないのだが、要は上記の事業成果発表会に、遅刻しそうになった(正確には、遅刻した)話である。
もともとワタシは、ほっとけば遅刻するのがデフォルトのタイプである。(居直っているのかオマエハ)
しかし、長年ニンゲンをやっていると少しは社会化されて、今日なんてちゃんと、予定の時間の10分前には、某市の庁舎前に到着していたのである。
ふふ、ぎりぎり、セーフだな、と庁舎の建物に向かいつつ、ところで庁舎の何階だったっけ? と思い、iPhoneのカレンダーを見たのだった。ところが、何か不思議な文字列が目に飛び込んできたではないか。
◎◎市民活動推進センター 大会議室
……ん?
なんか、オカシくね?
胸騒ぎを感じつつ、庁舎に飛び込んだが、考えてみると今日は土曜日。役所はやっていない、何か業者さんが工事か、改修をしている気配。
遅ればせに、市民活動推進センターって、ここじゃないよね?
と気付く(遅いぞ、ヒデアキ!)。
もしかして、またやったか(ギャッ)。
脚が既にもつれそうになりながら、やみくもに庁舎から道路に、駅の方向に小走りで走り始めている。
焦るな、まだ時間まで、6分、いや、5分はある。
…やばい。どう考えても遅刻だ。
タクシーはどこだ。
いや、まず、会場の担当職員に連絡して…。
流石のワタシは冷静沈着に、しどろもどろになりながら、センターの電話番号に素早くアクセスし電話している。
「ぼくはあの、実は今日の、成果発表会が、実は◎◎時からなんで、遅刻、いや、これからタクシー。あの申し遅れましたがそれがしはギッチョ、いや、その発表会の議長なですが、だから居ないとやばい、遅刻。と担当職員さんに伝えて下さい!…」などと訳のわからない電話をするも、冷静沈着な受付の女性が、職員に伝えると請け合ってくれて、ちょっとほっとしつつ、ではタクシーだが、タクシーはどこに居るのだ?
気がつくとそこは交差点だった。
たくさんの車は走っている。だがタクシーはいるか。そんな都合よく来るものか?
目はせわしなく、信号で停車中の路上の車輌に注がれる。すると、対面から車輌の上に何らかの社名らしき突起物をつけた車が来て停車した。あれは、確かに、タクシー。空車か、客が乗っているのか。
ワタシはわからないままに、手を振った。大きく伸び上がって懸命に手を振った。まだ信号は赤。は、早く青にならんかい!
車がどっと動き出し、タクシーはこちらに寄ってくる。ああ、神様。
ところが、回送、の文字がフロントガラスの奥に。
しかし、タクシーは停車した。
「あのあの、実はすごく急いでいて、遅刻」
「いま、東京から来て、帰るところなんだよね、回送中だから乗せる訳にいかないんだよ」
「そ、そこをななななんとか、遅刻する。いやもう遅刻した。」
「お金ももらえないんだよ」
「ええ、いや払いますよ払う」
「じゃ、仕方がない乗せてあげるけどどこへ行くの。全然土地勘がないからわからないよ」
「そそそそれは、このスマホを見て頂ければ」
「これは、その、どう見ればいいの?」
「いやつまり、そのルートが。あのあの、わたしが指事を出しますので、取りえず前進して下さい。その道を行って次は左折じゃなくて右折」
「じゃあ行ってみるか」
「すみませんすみません。お金は払います」
「だから、お金もらえないんだよね」
「そんな、会社にばれるとマズイなら個人として受け取って頂く訳にはいかないんですか」
「個人事業主だけれどさ、だめなんだよ」
「えー、そこその先で右折お願いします、でも1000円だけでも」
「ここ? もうひとつ先? …まあいいよ、とにかく行くんだろ?」
「はは、ははい。よろしくお願い致します。すみません」
というような会話を交わしつつ、距離にしてどのくらいだろうか、そんなに遠くはない、一駅くらいの距離をGoogle君に言われるとおり、一か所通常なら絶対通らない未舗装の狭い道まで無理やり通り抜けて向かったのだった。そして目的地のセンターがすぐ側の駅のロータリーで下ろしてもらう。
「本当にすみません、助かりました、千円払っちゃ駄目ですか?」
「いいんだよ」
「せめてお名前だけでも」
(笑っている)
(泣く。泣いてないけれど)
「すみません、あなたに幸運が訪れますように」
そしてワタシはセンターに向かって走った。よたよたと。
センターに着き、受付で焦る気持ちをなだめつつ「大会議室」を聞く。3階だ。
エレベーターに乗る。3階に出る。受付らしきものがあり、そこに担当課の課長の姿が。
「すみませんすみません、遅刻」
「いや、入って下さい」
そのまま会議室に入る。時計は、定刻を4、5分過ぎていた。満席の中、裏からまわりたかったが、席は一番前、前からとうながされて、プロジェクターの光を遮りつつ前の席に座る。周りの委員や、職員に小声で謝り頭を下げる。ちょうど司会進行の職員さんが挨拶を始めたところだった。「少し遅れましたが、みなさんおそろいになりましたので、これから…」
なんとか、間に合ったのか?
どっと汗が吹き出ている。
「…では、始めに議長から、ご挨拶を頂きたいと思います」
マイクを握る。立って、参加者を振りかえり、ぼくは挨拶を始めた。